裏アカ太郎
むかーしむかーし、あるところに
毎日刺激もなく、ただ、ただ、生きている男がいた。
朝から夜が来るまで働いて帰っては寝るだけの生活。
SNSで愚痴を言うのが唯一の楽しみであった。
そんなある日の出勤途中
「あひゃひゃひゃ!!!」
と笑い声が聞こえてきた。
男はその声の元へ向かっていった。
すぐに怪我をしている亀の姿が目に入った。
亀はめったに見ることのできない、それはそれはレアな生物だった。
その亀の周りでは童達が大騒ぎしている。
「うおおおぉ!!!珍しい!」
「かっけぇ!!すげぇすげえ!!」
傷ついてることなんぞ意に介さず、童達は写真を取りまくっている。
男はふつふつと熱いものがこみ上げるのを感じた。
なんだこのガキたちは!!!
同じような毎日を、ただ、ただ、過ごしている男にも、心の奥底にしまい込んでいた熱い気持ちがあったのだ。
男は大きく呼吸をし、気合いを入れ、凛々しい表情でゆっくりと、大きく、亀と童達に向かって歩きだした。
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翌日【珍しい亀見っけた】というタイトルで男の上げた動画がSNSで拡散され、大バズりした。
男は承認欲求が満たされていく感覚を覚えながら、コメント欄を封鎖し、鍵垢にして
また同じような事の続く日常へ戻っていった。